空しい買い物

アクセスの良さで普段行きつけないCDショップを利用したらひどいめにあった。そのお店はいちど利用したことがあって、その時も接客に物足りなさを覚えたんだけど「お気に入りの店と比較してしまうせいで、こんなもんかな」と納得してしまってた。もっと自分の感覚を信じてやればよかったのかなあ。


すべてが終わったあと、私はやっとの思いで手に入れたCDを尻目に、レシートを眺めながら唖然としていた。「さっきまでの彼女の奮闘はいったい何だったんだ……」何が起きたのかよくわからなくて、狐につままれたような気分だった。あの店を使うことはもうないかもしれない。


まず、私の手から2枚のCDを私から受け取ったレジの女性は、プラスチックフレームをぱこぱこと外した。そこまでは普通の光景だった。つぎに、CDをくるくる回しながら何かを必至に探し始めた。いつまでも見つからないみたいで、私に向かって突然「消費税が……なりますので」と、説明だか質問だかをなげかけた。肝心なところがもごもごと消え入って、意味がわからない。思わず「え?」と聞き返したけれど2度目はなく、彼女は無言で電卓を叩きはじめた。何度も挑戦する手元を見ていると、「0.05云々」をどうにかしようとしているらしかった。状況からなんとなく察するに、「消費税分が割り引かれるのだけど、税抜きの価格がわからないから困っているのか?」と思った。


それを何度繰り返した頃か、彼女は思い切ったように隣接する書店へ走り去った。戻ってきて「すみません」と言いながらレジにぴぴっと何かを打ち込んだ。彼女の試行錯誤は結構長かったので、ここまででもずいぶん待たされていたけれど、慣れないレジ打ちが緊張するのはよく解るから、よかったよかった、めでたしめでたしと思って「いえいえ」と答えた。


そして、彼女は2枚目のCDにとりかかり、1枚目と全く同じことを繰り返した。


さっきのことがある所為で「何度もここを離れて客を待たせるわけにはいかない」というプレッシャーを感じていたのかもしれない。自分で何とかしようとして、どつぼにはまった。試行錯誤して、だめだった。そしてまた「すみません」と言いながら隣の書店へ走っていった。戻ってきて、打ち込んだ。何度も彼女は謝った。私だったらもうパニックできっと泣きたいだろう……そんな想像をしながら「いえいえ」と答えた。


そして彼女は、今打ち込んだCD2枚分の値段を読み上げた。
「3856円になります」
私が買ったのは3900円のアルバム1枚と1000円のシングル1枚。おいおいシングル1枚無料になってるぞと思い「えっ」と問い返すと、彼女は「あっ」といってまた電卓を叩き始めた。そして中略、隣の書店へ以下略。


戻ってきた彼女はレジを叩いて言った。
「4900円になります」


えっ。繰り返しになるけれど、私が買ったのは3900円のアルバム1枚と1000円のシングル1枚。この時こそ声に出して何か問うべきだったのかもしれないけれど、そこはもう無言で、ポイントカード(比較的よく利用する書店と共通なので持っていた)とお金を差し出した。とにかく、いろいろな疑問が頭の中を渦巻いて、なにがなにやら解らずぽかんとしている私の目の前で、彼女は、カードにポイントを付けるため隣の書店に走っていった。


戻ってきた彼女は「おまたせしました。ポイント5倍付けておきました」と言ってカードを返してくれたけれど、頭にはてなをいっぱい浮かべた私は「はあ、どうも」と気の抜けた返事をして店を後にした。腹立たしくはなかった。なんだか空しい気分になった。


あの場の最適解は、ひとりでは対処しきれないと見切りを付けて応援を求めることだったのかな。「自分で出来るはず」と思うことも大切だけれど、その可能性を数値化して客観的に見極めることも大事だ。私はそういうのすごく下手だと思う。憤るより空しくなったのは、そういうところを自分と重ねたせいでもあったのかもしれない。