『薔薇のない花屋』

予告の段階であまり興味を持たなかったドラマに思いがけずはまった今期。やあやあ今期の月9はおもしろかったなあ。野島氏=暗いドラマというイメージがあったんだけど、このドラマは設定は暗いながらに登場人物が愉快で見やすかった。


最終回見ながら、唐突に「このドラマはディズニーだなあ」という感想がうかんできて、自分でもなんでそんなこと思ったのかしばし考え込んだんだけど、単純にファンタジックでおとぎ話みたいだからかな。架空のお話の中に境界線を引くのも妙な感じだけど、なんだか2次元みたいなお話に思えた。暗い設定ではあるけど細部に嘘っぽさは感じられなくて、でも全体が、悪く言うと胡散臭い。ファンタジック。


作り物めいた空気は主人公の存在も大きい。香取くんが、人形みたいなんだ。酷薄そうな顔するのがすごく似合う。悲しいのだか切ないのだか、何から来てるんだかよく解らないような微妙な顔をする。喋り方も舌足らずで、ずっとそこにいるのにとらえどころが無くて、存在感が半透明。本編では色んな人間の人生のお話が絡み合ってるけど、やっぱり結局はこの人のための物語だったんだ、と最後のケーキのシーンでぱあっと見えてくる。ここでも、なんでかディズニーの『美女と野獣』を思い出していた。野獣の呪いが溶ける瞬間。このドラマはここに集結してたのか、と思った。


英治が雫に電話で真実を告げるシーンはちょっと突っ込みたいところもあった。彼が誰にも“優しい”人間でありながら、あそこで初めて雫に真実を告げたのは、英治がやっと見せた、エゴイズム……ある意味での人間らしさだったのかもしれない。雫の受けるであろう痛みを承知の上で「美桜の親を救う」という目的との天秤で、それを選んだのだから。「愛」というひとくくりでこのドラマを捉えるなら、家族と恋人と、両方の愛を手に入れるための道のりなのかもしれないけど、やっぱり、こどもはなあ、幸せであって欲しいと思っちゃうんだよ……そこで恋愛を選ぶのか、と思ってしまったんだよなあ。本当は「命」なんだろう、とは思うんだけど。


その選択肢を作った張本人の玉山くん……神山舜(今確認して「上山」じゃないんだと知った。名前もなんだかファンタジック)は、ラスト数話で唐突に登場しやがったので「お前、今までちらとも出てこなかったキャラクターがこんな時にのこのこ出てきて、推理小説なら禁じ手だぞこのやろー」とかちょっぴり罵った過去も今は昔。彼の言動に関しては、過去がどうであろうとそりゃ行きすぎだろうと言いたいが、唯一、英治との絡みに関しては最高だった、と思う。相容れない、多分心から通じ合っているわけでも分かり合っているわけでもなくて、過去の共有以外に、今のふたりを繋いでいる糸はもしかすると「合い言葉」だけかもしれないような危ういバランスが、数話の中でぎゅっと描かれていておもしろかった。舜の「俺たちのことは俺たちにしか解らない」みたいな態度は、何度も何度も英治に訴える分、それを頑なに信じようとしている脆さが浮き出てきて、それはある意味じゃとても人間らしく、やっぱりここでも、英治の「獣」ぶりが浮き彫りにされていた。だから最後に「涙を流さない」と言った舜の言葉を破って英治は泣くけど、ひとりでさっさと殻を破ってしまった、と言うよりは、あの英治がもう涙を知ったのだから、舜がこのあと英治の元に戻ってきたとしても、もう大丈夫だ、みたいな気にさせられる。


最後の最後のシーンは、きっとパペマペの誘拐犯たちが出てきたときのあの子なんだろうな。マスターがパペマペかぶってたのは、あの子に見せるためというよりかは、視聴者へのヒントなんだろうなあ、なんて邪推しつつ、しかしなにげにあの1回を見逃しただけで、ラストは意味不明だな。だって、見てても一瞬はてなだったよ(それは私の頭の回転が遅いだけか)。