目と鼻の先

窓ガラスを隔てた世界が好きだ。陽差しはあたたかいのに空気の冷たい日や、土砂降りの雨の日、家が鳴るほどに風の強い日などにガラスの中から外を眺めていると、家というのは人間を守るために作られたのだなあとしみじみする。一方で、いまこの風に乗って大きな石が飛んできて窓ガラスを割ってしまえば、とりあえず自分には為す手立てもないのだと惨状を想像してみたりもする。
こういうとき、私たちは穏やかに過ごすために積極的に内にこもっているのだけど、言い換えてみれば内にこもるしか手立てがないわけで、自分たちが作ったものに守られているようで閉じこめられているようでもあるなあと思う。閉じこめられていることが不快だというわけではなく、むしろ少し愉快な気持ちになった。

買い物に出かけると雨がぱらついていた。返る頃には、暗くなった空を時々雷の閃光が染めていて、それがあんまりにも明るいのでこのまま落ちてきたら死ぬのかなあとか考えた。動いているものに落ちるのだったかその逆だったかそんな決まりはなかったのか忘れてしまったけど、そのときいた場所には住宅と田んぼばかりであまり動いているものもないし、半径50メートルくらいでいま活発に動いているのは自分くらいかもしれず、しかもこの雷がなんだか光ってすぐに音が鳴っている状態なのはやっぱり怖いなあとか妄想をたくましくしていたらいつのまにかずいぶん走って、無事に家に帰り着いた。家の鍵を開けようとしたら変な音がしたので後ろを振り返ったら、瞬間にばらばらと凄い勢いで雨が降ってきた。


指でつまめる程のガラス窓や、人ふたりすれ違えるかどうかの軒先のむこう側は、いつも何気なく歩いている道なのに、こういうときはっきりと外界の顔をする。